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タイムトラベラーは終わりの始まり
侑良 草士
――白い壁とカーテンに囲まれた消毒液臭いベッドの中で目を覚ましたのは2週間前の月曜日――
「先生! 一之宮終始(いちのみやしゅうし)くんが意識を取り戻しました!」
口元に違和感を感じて右手でそれを持ち上げれば、テレビドラマで見た酸素を吸うマスクだった。慌てた様子の看護婦さんと、駆けて来た首に聴診器をぶら下げた医者は、僕のマスクを口から外すと、僕の着ている衣服の裾をめくり聴診器をあて、それから手首を掴み脈拍を確認すると「うん」と大きく頷いた。
「もう大丈夫だ」
看護婦さんはそれを聞き「もう大丈夫ですって」と僕に言い頭を撫でて来た。
全身に感じる妙な違和感。ダルさと両手足の感覚がなだかおかしい。それに頭がバサバサとしていて視界が狭い。
医者が去っていき、点滴の速さを確認する看護婦さんは、
「これから大切な話をするけれど、また気を失わないでね」
と優しく言い聞かせてくる。
「大切な……話?」
乾いた喉から発した僕の声は、聞いたことがない声に感じた。久しぶりに自分の声を聞いたような気がするけれど、こんなに低い声だったかな。
上半身を起こそうとしたら、感じていた全身の違和感を特に感じた。思うように動かないが、なんとか起き上がる。
あれ、この病院のベッドは子供用なのか?
伸びる自分の足がこんなにも遠くて、ベッドの端の方まで埋まっているものなのか。
頭を揺らせば髪の毛が視界を覆ってきたから手で避けるが、目の所にかかってきてしまう。
みかねた看護婦さんが僕の前髪を分けるように優しく撫でながら右耳と左耳に順番にかける。耳や首元がくすぐったくて慣れない。
「終始くん。ここは病院なの。どうしてここに居るかわかる?」
――わかる。
「そう。頷くってことはわかるのね」
首を縦に振ればまた髪が落ちてきてしまった為、看護婦さんは再度僕の髪を分けて耳にかける。向き合う看護婦さんの目つきは少々きつかった。
どうしてこんなにも髪が長いんだろう。
軽く胸元を見れば、クラスの女子のような長髪だった。胸元にかかる髪の毛が自分の物だと信じがたい。
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