第1章

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 右へ視線を移せば、ベッドのサイドテーブルには写真たてが飾られていた。動物園の入り口で、父さん、母さん、姉さんと僕が笑っている写真だ。  僕の誕生日である昨日に撮った写真。  母さんの手作り弁当を持って高速度道路を走り有名な動物園に家族全員で行ったのだ。婆ちゃんと爺ちゃんとペットで新しく迎えたばかりのドーベルマンの子犬のキャロルは自宅で留守番だ。我が家の留守番犬(るすばんけん)。僕がキャロルと名付けた。  とっても楽しい1日だった。たくさん笑った。  朝は笑っていて楽しかった僕達一之宮家だったが、夕立が降った帰り道、……僕達は事故に遭った。  母さんに代わってもらった車の助手席で、運転が得意な父さんと喋っていたら、激しい雷雨に襲われ、雷の光が一面を真っ白に照らしたその時だった。  追い越し禁止の黄色い中央車線を越えてこっちの車線に入ってきた大型トラックが目前に迫って来た。  父さんがクラクションを鳴らし続けてハンドルを横に切った直後、ジェットコースターよりも激しい衝撃に襲われ車の上下左右が入れ替わったのは覚えている。  まだ耳に残るクラクションの音と、急ブレーキの音。  僕は衝突事故に遭ってしまったのだと、薄れゆく意識の元、自覚した。 「しゅう、し……」  頭から血を流す父さんを見た気がするし、後ろから僕の名前を呼ぶ母さんのか細い声が聞こえてきた気がする。  たぶん救急車によって運ばれたのだろう。  そして今、僕が目覚めた。 「終始くん、よく聞いて」  鉛筆で描いたような一本の眉毛の看護婦さんは、その細い眉毛をハの字にして、僕の手を握ってきた。  あれ、変だな。僕は男とはいえまだ子供だ。父さんのゴツイ手も、母さんの華奢な手も僕の手よりは大きかったはずだ。  それなのに、なぜ今僕の手を掴む大人の看護婦さんの手は、僕の手よりも小さいのだろうか。 「6年前の5月4日、そうね、君の誕生日に君たち一之宮家は高速道路で交通事故に遭ってしまったの」  それは理解している。薄れていく意識の中、全身に衝撃が走りあっという間に視界が回転した。 「……ろ……く」
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