第1章

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 交通事故は、頭では理解できている。自分達だけは大丈夫だと思っていたが、全国で起こっている交通事故だ。あの眩しい雷によって視界は遮られてしまい、相手のトラックが僕達の乗る乗用車につっこんできたのだろう。運が悪くてついに自分達の家族が交通事故に遭遇してしまっただけのことだ。  僕は頭が悪い。  成績は中の少し下。けれど、交通事故に遭い、ここが病院のベッドで片手が点滴に繋がれているということだけは瞬時に理解できた。事故の後、誰かが救急車を呼んでくれて、病院に運ばれたということだ。テレビドラマではよくある展開だから、自然と頭で理解出来たのだろう。  僕は頭が悪い。  だけれど、耳まで悪かったかな……。  看護婦さんの言葉を聞き返す僕に、看護婦さんは真剣な面持ちで頷いた。 「そう。6年前に。6年間、君は目覚めなかったの」  6年間、僕……が…………―― 「うわぁあああ」  信じられなくなりパニックになった僕は看護婦さんの手を振り払い、手首に繋がれている点滴の針を抜き取りベッドから降りた。 「終始くん!!」  裸足のまま走り出したが、思うように手足が動かないが、廊下の手すりを掴み必死に足を動かす。  看護婦さんは何を言ったのだろうか。  今更ながら交通事故の瞬間の稲光や衝突の瞬間が頭の中で何度も何度もリピートし、パニックに襲われ吐き気と頭痛がし床に膝を付きそうになるのを、手すりを掴みこらえた。  廊下の端にある全身を写す鏡を見て愕然とした。頭の中が真っ白になった。  看護婦さんが僕の肩を支えるように立つ姿が、鏡に映る。  鏡の中には、困った顔を浮かべている看護婦さんと、長い髪を振り乱して棒立ちしている1人の痩せた青年が居た。小柄な看護婦さんよりも少し身長が高かった。  僕の視界は黒い縦線が覆っていてよく見えない。  すだれのような黒い縦線を右手を使って目の所からどかせば、鏡の中の青年も同じ動作をする。  パサリと落ちてきてまた視界を奪う前髪を、もう1度目からよけて手探りで右耳にかけると、鏡の中の青年の顔がよく見えた。  父さんの若い頃の写真に少しだけ似ている気がする。鼻は母さんに似ている。……よく僕が婆ちゃんと爺ちゃんに言われてたっけ。目は父さんにそっくりだと。
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