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「終始くん、君は6年分成長したのよ。成長期だから身長も伸びてね、栄養は点滴だったから今は痩せているけれど、食事をきちんと食べれば標準的になれるわ」
頭がクラクラとした。
事態が呑み込めずに立ち尽くす僕は絞り出すように声を発した。
「父さん……は?」
僕が6年分眠っていたということは、父さん達も6年経過したということだろう。
この僕が発したとは想像出来ない低い声と、姉さんのように長く伸びた髪の毛と、身長が、6年もの年月を経過してしまったということはなんとか理解することはできるが、父さん達の姿だけは見当たらないのはおかしい。
僕が目覚めるのを待っていてくれた筈だ。母さんも僕を心配して痩せてしまったかもしれない。婆ちゃんと爺ちゃんは白髪が増えてしまったかな。キャロルは……もう成犬か。
姉さんは――
鏡に映る看護婦さんは言いよどみながら、ゆっくりと口を開いた。
僕の肩を抱く手に力がこもる。
「亡くなったの」
「……え」
「6年前の交通事故で、終始くんは意識不明になり、一之宮のおじさんとおばさんは亡くなったの。南(みなみ)は遠い親戚の人に引き取られたわ」
信じられない言葉が頭の中で何度も何度もこだまする。
亡くなった。死んだ。死んだ。父さんと母さんが。交通事故で――
「うわぁあああ」
全身の力が抜け白い床に座り込んだ。絶望しか見えない。
廊下に響いた僕の声は次第に小さくなり、消えていった。
長く伸びた頭を抱えて倒れる。
「終始くん!」
看護婦さんの僕を呼ぶ声が遠のいていくさなか、僕は意識を失った。
僕がベッドの上で目を覚ましたのは1日後だった。
上半身を起こすと体が軋む。
「――退院はいつでもできるだろう」
いつの間にか目の前に居た医者にそう言われ、僕は力なく頷くと、医者は去っていく。
全身が動かしにくいのは、6年分僕が成長してしまったからだろう。それはかろうじて受け止められる気がした。鏡に映り込んだあの姿が今の僕なのだ。
両手を使って長い前髪を両耳にかけてから、サイドボードに置いてある僕の誕生日に撮った動物園での家族写真を手で掴む。
事故の後、誰かが写真を現像してここに置いてくれたのだろう。
父さんも母さんも姉さんも1番背の低い僕も……みんな笑っている。僕は誇らしげにピースをしていた。
年月の経過は受け入れなければいけないんだ。けれど――
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