第1章

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 お墓参りに行かなければいけないとは思うが、墓地に行っても笑う父さん達にはもう会えない。 「明日退院しよう」  1度目をギュッと閉じてから開いて、ぼんやりとした頭でそんな事を考えながら窓の外の景色を眺める。  少し離れた所に大きな煙突が見えた。「千散温泉」と書かれている。なんて読むんだろう。わからないや。昼間でもよく見えて、夜になるとライトアップされているのを知 っている。方角的には僕の家の方だ。 「明日退院します」  聴診器で胸の音を聞いていた医者は「そう」とだけ言う。僕に関心がないようで「手続きは受付でして」と言い部屋から出て行った。  僕は荷物を纏めようとしたが、棚を見ても殆ど物はなかった。  婆ちゃんが持ってきてくれたのだろうか。僕の黒いランドセルと、中にはお気に入りの筆箱と小学4年生の1学期の国語と算数のドリルが入っている。ネットに入ったサッ カーボールが入っており、ペンで「早く元気になれよ」とかメッセージが書かれていた。  確かに僕は小学4年生だったんだ。 「1ねん2くみ。いちのみやしゅうし」  懐かしい母さんの文字で僕の名前がランドセルに書いてある。  一之宮終始。  終わりの始まりだなんて変な名前で大嫌いだった。  だけれど、父さんと母さんが僕に残してくれた大切な贈り物だと思うと、絶対に手放すものかとも思えてくるから不思議だ。こんなにも身長が伸びてしまった僕にランドセ ルは不格好かもしれない。  小学4年生の1学期から6年間というと…… 「4年5年6年 。中学1年2年3年……で、今は5月10日だから――」  指を折って年数を数えてみる。 「わお。高校1年生だ」  凄い飛び級をしてしまった。  高校受験なんて受けていない。だから僕は高校生ではないが…… 「高校1年生……」  看護婦さんの話によれば、婆ちゃんが置いていってくれたらしい、母さんが化粧台に座ってよく使っていた裏にバラの絵が彫られている女物の大きな手鏡を持ち上げて、今現在の僕の顔をまじまじと見つめると、父さんに会えるような気がした。  高校1年生、17歳の僕はこんな顔をしているんだ。 「情けない顔してるな……」  小さい頃思い描いていた未来の僕は、凛々しい顔をして、しっかりと前を向いて人生を歩んでいる僕だった。サッカーが大好きだったからどこかの高校でサッカー部に所属していたかもしれない。
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