量産型

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 視界が真っ白になる。眩さに思わず目をつむった。まぶたが透けて、視界が真っ赤になる。何が起こったのか。確認しようと少しずつ目を開く。すると、目の前には異様な光景が広がっていた。  その部屋には、たくさんのカプセルが並んでいた。一つに恐る恐る近づいてみる。カプセルの上には紙が貼ってある。そこに「ボイスサンプル1586時崎美麗」と書かれていた。よく調べてみると、カプセルの小窓から、中身を確認できる。  中にあったのは人間だった。いや、肌があまりにも白いので、人形なのかもしれない。少なくとも人形(ひとがた)の何かがそこに入っていた。  私は驚きすぎて、腰を抜かすこともできなかった。液体窒素のプールに突き落とされ、身体のしんまで凍ってしまったかのように固まった。次に頭が、目の前の出来事を詳しく分析し始める。  エレベーターの塞がれたボタンを押したら、よく分からない階に送られた。そこに飛び出たらカプセル入りの人間らしきものが並んでいる。恐らくここは何かの実験室、それも公にはできないであろう場所だ。私は間違いなく、押してはならないボタンを押してしまったのだ。  今の自分が置かれている状況を、ある程度理解してしまった。引き返して目的の六階に向かおう。しかし、それは叶わないことだった。閉じたエレベーターの周囲には、ボタンがついていなかった。上にも下にも行けない。  瞬時に、脳内が撹拌される。あるはずのものがない。この部屋からは、出られない。出口を探す。しかし、あるのはカプセルだけだ。こんな混乱もうたくさんだ。  これが夢ならどんなにいいことか。そう思って目をつぶる。そして、思い切り目を開ける。だけど、目の前の光景は変わらない。この悪い夢は覚めなかった。紛れもない現実だった。  現実を受け入れようと深呼吸しようとしても、それもままならない。落ち着こうとしているはずなのに、荒い呼吸の音が頭に響いて、焦燥が募っていく。恐怖で手が痺れる。足が痺れる。全身の血管までもが痺れてしまったような気がして、自分の存在が曖昧になる。
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