量産型

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 それにしても彼の声、一年前より通りがよくなって聞きやすくはなった。だが、何だかおかしい。個性がなくなった。いや、確かに良い声なんだけれどもどこにでもいるような。そう、限りなく普通な声になった気がする。抑揚や感情はこもっているのだが、人工音声を聞いているようである。 ──チンッ  エレベーターの到着した電子音がなる。どうやらカツキが迎えに来てくれたようだ。そういえば、彼は先ほどこの階に用事があるといっていたが、いったい何の用事があるのだろうか。  扉が開く。そこからでてきたのは笑顔のカツキだった。それも、彼は相変わらずドジっ子らしく、出店の調理で使っていた包丁を持ったままだった。 「久しぶりカツキ」 「やあ、元気してた?」  カツキがカツカツと足音を響かせてこちらへ近づいてくる。どうも、様子がおかしい。笑顔が不自然だ。 「あ、ああ、もちろんさ。そちらは?」 「元気だったよ。まるで、生まれ変わったみたいにな」  カツキの速度はドンドン速くなる。絶対に様子がおかしい。疑って彼の笑顔を見る。不自然どころか、気持ちの悪い表情に変わる。 「カツキ、お前様子がおかしいぞ」  この発言に返答はなかった。その代わり、彼は私近くまでワープするように駆け寄り、右手の包丁を逆手に持ち直した。その瞬間、私は理解した。次の瞬間殺される。カツキではない何かが、体に刃を突き立てようとしている。  避けようとした。が、それは叶わず私の鳩尾に鈍く光る刃物が抉りこまれた。部屋の床やカプセルを血が汚す。カツキは何度も何度も私の鳩尾を刺してくる。すごい血が出ているのに、体のしんまで刃が刺さっているのに、何故か痛くない。  力が抜けていく。気が抜けていく。視界が黒に塗り潰されていく。頭がグラグラする。だけど、とっても気持ちが良い。催眠術にでもかかったように、肉体と魂が沈みこんでいくのがたまらない。だんだん意識が曖昧になる。  恍惚の海に沈んでいく中、私が見たのは笑顔をピクリとも動かさない、アンドロイドのような男だった。
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