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「いや。だから、お前が手術したいんだろ? 孫のお前が望むのなら、お兄ちゃんの取り分を使ったってばーちゃんは喜ぶよ」
「喜ばねーし。つか、望んでねーよ。俺は男だ。それにさっきから自分のことを『お兄ちゃん』ってなんだよ。キモい」
俺は兄貴を睨みつける。あぁ。あちー。なんで俺は、炎天下の公園で汗だくになりながらボけている兄貴を咎めなきゃいけないんだよ。本当なら今頃は、ガンガンに冷えた
リビングでレースの新記録をたたき出して、興奮しながらキンキンに冷えたジュースで祝杯を挙げていたというのに。もとはといえば、この手口は振り込みじゃねーけど、典
型的なオレオレ詐欺じゃんか。どーしてひっかかるかな。
「鯛焼きの食い過ぎでついにボケたか?」
兄貴は額に汗を滲ませながら、メガネを持ち上げる。
「あの声は間違いなく兎羽槍だった。お兄ちゃんのオレが可愛い弟の声を間違えるわけがない」
「可愛いってなんだよ。きめーな」
やっぱり壊れてるコノヒト。俺はうんざりしながらTシャツの袖で汗を拭う。
「……あ! 来た」
*****
どこかを見ていた兄貴が声を発すると共に俺の手から封筒を奪おうとしてきたから、体を丸めて全身で阻止する。
「なに!? だから――」
俺は兄貴の長い腕から封筒を守ろうと体の向きを変えたその時だった。夏なのにシルバーのニット帽を被りメガネをしている人物が、まっすぐとこっちに向かって歩いてき
た。そのニット帽は、なんか西洋の、槍を持たせたら似合いそうな、金持ちがコレクションして飾っている騎士の甲冑の頭部分のデザインをしているが、本来は目の部分を覆
うであろう箇所が何故か口元を覆っていた。それ、目隠しだろ。使い方間違っている。つか、それどこで売ってんの? なんか強そうだし騎士風でカッコイイから欲しい気が
しないでもいが、俺が持ったら名前的に絶対にからかわれてしまうだろう。――来た! 犯人だ。
俺は威嚇した。
「オレオレ詐欺なんかしたって無駄だかんな! カネなんてやんねーよ」
まんまと兄貴がひっかかって、今ここに大金を持ってきてしまっているが。とは言わない。騎士の兜のようなニット帽の人物は俺達の正面に立つ。やっぱりコイツが電話の
主らしい。
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