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どこかの制服を着用しているらしい。紺色のブレザーに赤いネクタイ。ブレザーと同じ紺色のスカートに紺色のソックス……服装や立ち方、胸元の膨らみで女だと認識する
ことができた。女で学生のクセに詐欺なんてすんのかよ。物騒な時代になったものだ。おちおちテレビゲームもしてらんねー。メガネとその奥の目しか情報は得られないが、
なにかに驚いたように見開いていた。
「詐欺じゃない、です」
俺を見ながらハスキーな声を発した。おどおどとした喋り方だった。
「オレオレ詐欺をはたらこうとしたって、ひっかかんねーよ。俺達がここに居んのは犯人の顔を拝みたいからだ」
俺は詐欺師のようにホラを吹くが、実際にはここに立っている理由は違う。
「オレ、詐欺じゃなくて、本当に、お金を失くしちゃって困ったから家に電話をかけて、そうしたらお兄ちゃんが出たから……」
涙ぐんだらしく、声は震えている。馴染みがあるようなないような声に俺は首を傾げつつ、目の前に立っている謎の騎士風のニット帽を被っている女を上から下まで凝視し
た。少し離れているけど、身長は俺と同じくらい。髪は帽子をかぶっているから不明。体は女……。
「持ってきたから、泣くな?」
俺が封筒から意識を離していると、優しい声色の兄貴は俺の腕の中から封筒を掴み取ってきたから、ハッとして兄貴の体に抱きついた。
「バカ! なにすんだよ! そんな女に渡すなよ!」
「お金を失くして不安になって震えるハスキーな声も、体つきも、名前の由来になったあの兎のように赤い目も、オレの大事な兎羽槍だ」
やっぱり頭がイカレてる。さっきから言っていることが支離滅裂だ。俺はココに居るだろ。兄貴の言葉に俺は声を張り上げた。
「顔! 顔がわかんねーじゃん! アンタ顔を見せろよ!」
踏ん張る足に全身の体重をかけながら、女に向かって叫ぶ。
「え?」
「帽子だよ。それを取って顔を見せろ」
自分の声は知っているようで知らない。他人の方が聞き馴染みがあるだろう。だが、俺はコイツが俺だと言われ納得がいかない。だって俺はココにいるから。じゃあ目の前
に居るコイツはなんだ? となるわけで――
女はゆっくりと騎士風の帽子を頭から取った。
「こう、ですか?」
俺がココに存在しているからコイツが俺のワケなく……
「てぇ……俺!?」
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