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「なるほどな」
「あ、でもこれじゃあ本気の理由にならないかぁ」
ちょっと恥ずかしいけど真面目に聞いてね、と新庄は続ける。
「高校生でいられるのも今だけじゃない? 確かに来年もまだあるけど、今この時はもう戻ってこないわけで、それなら一度きりの今を全力で楽しみたいじゃん。それなら文化祭が一番本気出せる良い機会かなって思ったんだ」
俺は目を丸くした。別に、新庄が語った理由に驚いたわけではない。なんなら予想通りだ。
そう語った彼女が耳障りの良い言葉をなぞっているわけではなく、嘘偽りの無い本気で言っているのだと分かったからだ。
「凄いな新庄って」
思わず本音が零れ出た。
「な、なにを急に? 真面目に聞いてって言ったよね!?」
「いや、本当にそう思ったんだ。新庄ってすげぇ~なって」
本当だ。こんな風に真剣に生きている人間がいるとは。俺とはやはり大違いだ。
「そ、そう……?」
褒められ慣れてそうな新庄が、顔を真っ赤にして狼狽している。
俺はその時胸に鋭い痛みのようなものを感じた。何かは分からないが、それでも俺の中で何かが変わったことを実感で理解した。
「新庄、俺頑張るよ」
「うん……」
まだ照れくさそうにしている新庄を見て、平静が保てない。得体の知れない衝動が疼き、この身を任せてしまいそうになる。
「でももうちょい指導優しくしてくれよ」
どうにかそれを押さえ込むために、軽口を吐いて自分自身をも誤魔化そうとする。どうしてしまったんだ俺は。
「はは、ありがとう。でも指導は今後も厳しくしていくから」
軽口で返す新庄の笑顔はまるでキラキラと輝いて見えた。
やっぱり俺とは正反対だ。俺みたいな日陰者では到底届かない所にいる。でも、新庄……俺も君について行ったらそこまでいけるのか?
舞台を照らすスポットに俺なんかが入ってもいいのかな?
俺は主人公になってもいいのか?
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