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眩しい、そう呟く。
日も照っているわけでもないのに、真っ暗闇の夜の中、一つ、ちかちかと光る街頭を見て、僕は言葉を発した。
見なければ済む話だと、頭では納得しつつも、人が群がっている場所には好奇心が働くように、虫たちが街頭の明かり近くで飛び回っている光景を、特に意味もなく眺める。
虫と僕はまったく違う存在だと、月とすっぽんという言葉以上にかけ離れている存在だと認識しているのに、一人で夜の公園にいて、ふと、自分というものについて冷静に考えてみると、言われたことを自分の意思を持たずにやっていた僕が、ただ明かりにつられる虫たちと、どこが違うんだろうとも思えてくる。
思春期の少年が周りに構ってほしくて吐くような溜息のような、ねっとりとした蒸し暑い夜の空気にさらされながら、僕は溜息ではなく煙を吐く。
体に悪いということは知っている。
けれど、煙草を吸うときはそんなことは考えず、ただ上手いと、そう思うことにしている。
僕は、喫煙所で赤の他人と一緒になって吸うよりも、一人で、しかも外で、落ち着いて吸う方が断然と好きだった。煙草の煙が、世の中にあるどんなに高級なご馳走よりも美味しく感じて、ほんの少しの時間ではあるが、何だか、幸せだな、と、ふと思うからだ。
僕という街頭にさそわれたのか、食事の匂いに誘われる食いしん坊のように、煙の臭いに誘われたのか、それは定かではないが、ある知人が暗闇の中から僕に迫ってきた。
「・・・ここにいたのか」
「・・・健二」
僕は、何度も繰り返し呼んだことのあるその名を、自分にも言い聞かせるかのように述べた。結婚式のスピーチを、何度も何度も練習して、自分の中にも染みこませたときのように。
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