夜が明ける前に

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どうしてここに?と、僕が聞こうとするよりも早く、健二はおもむろに右手をポケットに入れながら、火、くれるか?と頼んできた。 僕はライターをズボンのポケットから取り出し、そのライターを彼に渡さず、そのまま僕の手で煙草に火をつけてやった。 「何年ぶりだ?」 「さぁ。随分と久しぶりではある」 僕が複数で煙草を吸うのを好まないせいか、健二といっしょになって煙を吸ったのはご無沙汰していた。暗がりの中、街頭の光でうっすら見える健二の顔は、息子が二十歳になったとき、いっしょに酒を飲めることに喜ぶ父親みたいな、嬉しそうな顔をしていた。 「旨いな」 ああ。僕は頷いた。 「何しに来たんだ?」 煙草を吸い、一段落して、僕はさっきしようとした質問を若干変えて投げかけた。 自分でも少し意地の悪い質問だと思っている。その証拠に、健二も若干呆れた小さな笑いを発して、分かってるだろ、と言った。 「こうしてお前と話せるのも、今日で最後になるかもしれないんだから。それとも何か?こんな日くらい、一人でいたかったか?」 「いや」 僕はすぐに否定した。健二が来てくれて嬉しかったと、お見舞いされた患者のような台詞を吐いた。 「時間はないだろうが、俺と話す時間は、ほんの少しはあるだろ」 「そうだな」 確かに、少しではあるが、僕と健二は多分、二人きりで話す必要があった。 「・・・まだ」 時間がないことは健二も把握している。だが、健二が発したまだ、という言葉は、僕が応えたそうだな、という返しから、一分くらい間を開けて宙に飛び出した。 その事実で、ああ、健二が言いたいことはあのことかと、僕が察するには難しくなかった。 「まだ、千尋のこと、悔いてるか?」
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