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一言一句、僕が想像していた質問とずれはなかった。
「・・・」
ずれはなかった。つまり、質問内容はあらかじめ認識していたのに、僕はすぐに回答できなかった。
「・・・どうかな」
結果、曖昧な返事を返した。ばつの悪いことではなく、本当に自分でも、分かっていなかった。
「・・・そうか」
健二はそんな僕の、普通ならもっと追究されておかしくない答えに、終止符を打った。健二なりに納得してくれたのかと思った。そして、その後に、健二は言葉をつづけた。
「適当に聞き流してくれていい」
しっかり聞いて欲しいんだな。僕じゃなくても、誰にも分かることだ。
「誰が何と言おうと、俺は、お前は悪くないと思ってる」
「・・・ありがとな」
僕は礼を言った。本気が慰めか、僕に確認する手段は無かったが、それでも礼を言った。
「・・・本当はな」
健二は帰って行った。
煙草の吸殻をその辺の草むらに投げ捨てて、また、暗闇の中に消えて行った。
その途中、僕の方を振り向いて、今日ここに来た理由を、最後に語りだした。
「本当は、お前を止めようと思ってここに来た。でも、お前のその顔、すっきりとした、覚悟を決めた顔、それを見たら、止めることが馬鹿らしく思えちまったよ」
ここに鏡は無い。あったとしても、その鏡で自分の顔を確認しようとは考えなかっただろうけど、一体どんな顔を僕がしていたのかは、分からなかった。
「・・・行くんだろ」
「・・・ああ」
「だよな」
今は夜中。街頭の光で、何とか姿を把握している状況だった。
だから、僕から少し離れただけで健二の表情はほとんど見えなくなった。
「・・・今日は邪魔して悪かった。じゃあな」
でも、健二の表情は、何だかどうしようもなく切ない顔をしていた気がしてならなかった。
健二がいなくなって、また僕は一人になった。
僕もそろそろ帰らなければと、手に持っている煙草を処理することにした。
草むらに投げ捨てるのもどうかと思ったので、特に大きな意味、もしくは理由があったわけではないが、虫たちが上で蠢いている街頭の根本まで進み、墓にたてる線香のように、まだ先が赤く光っている煙草をそこに置いた。
公園から離れ、僕も暗闇の中に溶け込もうとしたとき、ふと後ろを振り返ると、遠くからでも煙草の火が確認できた。
ただ、ほんのちょっとしたら、その火は役目を終えたかのように、ふっと消えた。
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