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涼子の言動はなかなか容赦がない。
そうは言っても、新司のミスである。新司は気が気ではなかった。
新人の配置という超重大な仕事が自分のミスで滞ってしまうなんて。組織人として教育されてきた新司には想像するだにおぞましい未来だった。
新人の配置は来週の月曜には発令しなければならない。
今日はもう既に、金曜日の夜。1週間かかったあの膨大な量のインプットを土日で仕上げなければならない。
ダッシュで会社に戻った新司は誰もいない管理課のフロアで灯のついた人材開発課の部屋に駆け込んだ。
「三木さん、すいませんでした!」
謝る新司は一顧だにせず、涼子は恐るべき速さで入力を進めつつ、モニターを見ながら言う。
「もう謝らなくても大丈夫ですから。ふたりでさっさと入力を終わらせましょう。私は入力とチェックを同時並行で進めますから、二木さんはこのレコードから入力をやり直してもらえますか。入力終わり次第、チェックに回してください」
恨み言や繰り言を言うでもない。部下の悪意なき過失に一切感情は揺れない。
涼子の中にあるのは、仕事をきちっと、期限までに終わらせる意思、ただそれだけであった。
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