(一)

2/11
前へ
/30ページ
次へ
 あの日私はなんと告げられたか。 「新しい王の誕生だ。今宵から、そなたが私たちの王だ」  そう言ったあの人はどんな姿形であったか。私の記憶は朧だ。それはあの人の姿が月光の陰になり、曖昧な輪郭しか目に映らなかったからか。それとも、ほんの少し覚えている姿ですら、儚げであったからか。  あの人。先代の王。  今でも思い出すのは、肌をくすぐった甘い香りと、月光の零れ落ちる音。  私は進化する。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

101人が本棚に入れています
本棚に追加