それは、偶然ではなく

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「あ……そういえば、今日から5錠飲むように処方されてるんだっけ……」  ユキは朝食の後いつものようにオメガの発情期抑制剤のアルミのシートを手にとって呟いた。 「僕はよく薬が効くから量は増やさなくてもいいとは思うんだけど……念のためにってとこか」  オメガということを偽って医者として働くユキのことを、同じ医師として理解してくれる主治医はいつも少し多目に抑制剤を処方してくれる。  医者という職業はその殆どがアルファ、ごく稀に優秀なベータで占められている。  だからユキがオメガであるにもかかわらず、医者になれたのは純血のアルファ家系である一族に認められたいという想いから、類い稀なる努力、正に血が滲むような努力をしてきた結果であった。  パチリ、パチリと錠剤を手のひらに出すと二回に分けてユキは薬を飲み込んだ。 「……ん……」  オメガであるというだけで劣っているというレッテルを貼られるのを避けるため、ユキは自らの性をベータと偽って病院に報告していた。  今日も暑くなりそうだからネクタイは病院に着いてからするか……  そう呟くとユキはラフな格好のまま独り暮らしをしているちいさなマンションを後にした。
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