別れのとき

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別れのとき

「綺麗だな─────」  思わず永瀬は10歳も年下の医師綾川雪也、ことユキの横顔を遠くから眺めながら思わず呟いた。  ユキが担当して永瀬が執刀をした脳腫瘍を患っていた13歳の患者の退院を彼は病院の正面玄関で見送っているところであった。  あまい顔立ちだがいつも職場では緊張し張り詰めた雰囲気を漂わせるユキの顔。しかし今日はその横顔は喜びと安堵で輝いて見えた。  彼の回りだけいつも美しい星を散りばめたように見えるのは永瀬の気持ちが反映しているからなのか。  永瀬は冬の気配を感じる凛とした空気の中、ユキを見つめながら彼を初めて見た日を思い出していた。  あれはこんな冬の始まりのような日、ユキが帝都大学の医学部に進学した最初の年。  日本では最高峰の大学の最も難しい学部のキャンパスにアルファに混じってたった一人オメガの少年がいた。  アメリカで飛び級を重ね、日本で医師になるよりも大分早く医師として働いていた永瀬。まだ20代にも関わらず、その腕は世界に知られるまでになっていた。そんな永瀬は外科医を志望する学生やまだ経験の浅い外科医に向けた講演会に招かれてこの帝大医学部のキャンパスにいた。     
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