本屋ではない本屋

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 内地までは船で五時間。船の運航は一日に一度、片道だけ。一度島から出れば、戻れるのは翌日。  そんな島にある店は、二軒のみ。ひとつは食料品を扱う店、もうひとつは、「BOOK」という名の看板を掲げたこの店だけだった。 「こんにちは」  今日も少年がやってきた。店に入ると少年は、何か新しいものが増えてやしないかときょろきょろ見回す。  狭い店内には、鍋や薬缶といった台所用品から箒や傘、蝋燭、枕などといった雑貨が、何の統一感もなく並んでいる。壁を圧迫し、通路を塞ぎ、さながら迷路のように。 「何も変わってないぞ」  店の奥から、無愛想な店主の声が響く。 「今日はちゃんと買い物に来たんだよ。原稿用紙ちょうだい。作文書くんだ」  少年は、ぱたぱたと店内を駆け回り、ガチャ、ゴンッ、カランカランなど色々な音をあちこちで立てながら店主のいるカウンターまで辿り着く。  少年が物の間から、にゅっと顔を出すと、店主は、分厚い丸眼鏡をひょいと持ち上げて少年を見た。 「いつ必要なんだ?」 「明日」  少年は、にこにこと答える。 「明日か……なんでもっと早く言わないんだ。明日仕入れに行っても、手に入るのは明後日になっちまうぞ」   店主が渋い顔をより渋く曇らせる。しかし少年は顔色を変えることなく 「でもおじさんには秘密の船があるんでしょ? 定期船よりもずっと早い秘密の船を持っているんでしょ?」  と、目を輝かせて言う。 「秘密の船? もしそんなものがあるなら、それこそ秘密に決まっているじゃないか。それは、お前も俺も、誰も知らない”秘密の船”だ」  そこで初めて少年は不安そうな顔をする。急に声が小さくなった。 「でも、おじさんの店は何でも売っているでしょ。本屋なのに」 「本も売ってはいるが、本屋じゃない。お前は知らないだろうが、”BOOK”は英語で“予約する”って意味もあるんだ。予約さえすれば俺が何でも仕入れてきてやるが、最低でも二日前には言ってもらわなきゃならん」  そこまで言って店主は少年の顔を見る。少年は、不安そうに店内に目を走らせていた。見えない何かを探すように。そして、ある一ヶ所に目を留めた。  
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