『夏目 雛小』

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「夏目雛小が気になるんだけど」  友人の実(みのる)が突然そんなことを言うので、俺は驚いて一瞬固まった。 「…………春が来た?」  少し考えてそうリアクションすると、実は照れも恥も出すことなく、俺に対して呆れた様に「違う違う」と言って首を振った。 「そうじゃなくて。ほら、彼女って常にポシェット持ってるだろ。あれが気になっててさ」 「だったらポシェットが気になるって言えよ」  紛らわしい。 「いや、彼女と言えばポシェット、ポシェットと言えば彼女だろ? オレの中じゃもうセットなのよ」 「セットって、お前。せめてトレードマークと言えないのか」  そう嗜めたものの、言い得て妙だとも思った。  入学してまだ一ヶ月だが、登校から下校まで常にポシェットを提げている彼女のイメージは、全校生徒に共通の印象を定着させた。 「…………で?」  俺は話の先を促した。  こんな話題を出すからには何かあるんだろう。 「うん。オレさ、噂を聞いたんだよね」 「噂?」 「彼女、あのポシェットにお菓子を詰め込んでるらしいって」  真面目な顔で言う実。  ……………………。  だからなんだよ。  と、思ったがそれは言わなかった。
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