第1章

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ロイドとロゼルが、舷縁から身を乗り出しながら笑顔で言う。 ロゼルはそのついでに、空いているボラードを確認し、ユーリに声を掛ける。 「ユーリ! 左のボラードに停まれるかしら?」 「了解」 ロゼルの声を聞いたユーリは即座に舵を回し、指示されたボラードに向かって船を慎重に進めていく。 ロゼルのキャラック船は他の船と比べると若干小さめの船体だが、それでもボラードに停めるのはなかなかの技術を要する。 船体を擦らないように、ゆっくりと、慎重に。 「……停まったぞ」 ボソリと、隣にいるリグに聞こえるように言ってユーリは舵から手を離した。 「おぉ、すげぇ! また揺れなかったな!」 「当然だ」 どこか自慢気にユーリは言って、ブリッジを降りて行った。その後をリグはついていく。 港の中は賑やかだ。大勢の男達が大声で談笑しているのが聞こえてくる。 クレンゼルは貿易で盛んな国の一つでもある。近年はその規模に港の大きさが見合わなくなり、船が溢れることもあると言う。 その対策として、現在クレンゼルではこの南にある港とは別に、西側に小島を人工的に造り、そこに新たな港を造る計画があるらしい。 「運が良かったな」 「ほんとね。ありがとう、ユーリ。ボラード料の交渉に行ってくるから、ユーリはロイド達を連れて、先に降りて……あ」
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