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「怪我はない?」
「あ、はい。大丈夫です」
声を掛けたと同時に、パッと顔を上げた女性の顔は、生真面目で正義感の強い表情に変わっていた。
「あんたねぇ、一人で外歩いちゃダメって前にも言ったでしょ? あたしが気付かなかったらどうなってたことか……」
「すみません、助かりました。今日はフレンが公務で……どうしても一人になってしまって」
「じゃあ出掛けるのやめなさいよ」
もっともな言葉に女性は俯いて、槍を握る手に力を込める。
「そう、ですよね……。すみません……」
「あたしに謝られても困るんだけど……」
ロゼルが言うと、女性は落ち込んだように肩を落として細い吐息を漏らした。
微かに、その小さな肩が震えている。
「……国民の声を直に聞ける貴重な時間なので、この時間を無くしたくなくて、つい……。軽率でした」
「その心意気は良いと思うわ。あんたは本当に良い為政者よ。でも、あんた自身に何かあったら、元も子もないでしょ?」
ロゼルはそう言って、彼女の肩に触れた。
女性はゆっくりと顔を上げて、柔らかく微笑む。
「ありがとうございます、ロゼル。私は、いつも貴女に励まされてばかりですね」
「そんなのお互い様よ。ね、早くここから出ましょ? カビ臭くてかなわないわ」
「ええ、そうですね」
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