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目を瞑れば、その目蓋の裏には和哉がいる。 そんなことは、もうずっと何度も何年も思い知らされてきたじゃないか。今更、何に動揺しているんだろう。 私は私を選定する。瞼の裏の和哉と、電波の向こうの和哉と、勝手に共存しているけれど、隣にはけしていない和哉には頼れない場所にいる今だから。やると決めたんだ。 結局、私の行動原理が男なのはもう認めよう。 その上で、どう受け入れて日常に落とし込んでいくのか。和哉だけがすべてなんかじゃないことも受け止めて。私は私として生きようと決めたのだ。 だから、過去の服はいらない。色褪せたものはいらないのだ。 「うん。上出来。じゃあ、売りに行きますか」 結局大袋二つになった服の山を私は手にした。ずしんとくる重みが、腕を重力方向に引っ張る。これが、数年溜めた私の余分。踏みにじったものもあっただろうし、向こうが切り離したものもある。それでも私を作り上げる上でお世話になったから、もうこの服たちは私を卒業するんだ。 今までありがとう。お世話になりました。 そんな言葉を、口にはしないで頭を下げた。 さぁ、新しい私の始まりの軍資金はいくらになるかしら。降りた肩の荷と、これからのことを思えば、両手の重みなんて軽いものだった。 明日着る服は、そうだな。休みだし、和哉と初めてデートしたときの服でも着てみようかな。化粧をして、誰に会うわけでもないけど、ちょっと遠くまでウインドウショッピングにでも行ってみよう。お金は持たない。あれば買ってしまうかもしれない。不自由のない今に、新しいものなど不要なのだから。 これさえあれば、生きられる。 彼が笑ってさえいてくれたら、生きられる。 私らしい私は、昔から言うほど変わっていなかったけれど、少なくとも前進していることは間違いないと言い切れる。会うかどうかは別として、会えるだけの覚悟が、もう少しでできそうなのを実感していた。ここからまた、一進一退の葛藤はあるだろう。それでも、新しい服を買うなら、今は周りに誰もいない私自身が選べるのだ。それでいい。 今は、それだけで充分なんだ。 この先のことなど、自分と彼と、あとは天に任せよう。
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