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女は、着飾ることを決して忘れてはいけない生き物だという大前提が、あの頃はなかった。一年前。青臭くも恋をして、青臭くも仲違いに涙して、青臭くも仲直りでも涙した。 そんな頃に輝いて私を飾ってくれた服が、今やこうまで色褪せて映るなんて。溜め息とともに、私はその色褪せた服たちを袋に詰め込んでいった。箪笥の肥やしになる前に売ってしまわないと。そんな焦燥に駆られていた。 この部屋は、淀んでいる。 部屋を見渡すと、一面服だった。夏服も、冬服も。ぜんぶ出して、淀みをすべてろ過しなくてはいけないのだ。 こうまで私を駆り立てたのも、けして新しい男ができたからではない。私は、私でいなければいけなかったからだ。男に振り回されて、男で色を変えて。どこかへいった私を取り戻さなければいけなかった。この一年で、私は私を見失ったからだった。 冬弥。二度ともに冬を越した、一番長く付き合った彼。彼との付き合いで、私がはっきりと自覚したのは、寄りかからずに立てる自分でいなければ、誰とも付き合えないというものだった。 「今度の休み、何する?」 「仕事の後、ご飯行かない?」 「今、何してる?」 あまりに当たり前のように、お互いがそう過ごしてきた。空いた時間を、空いてなくても空くように図らって、そうして過ごしていた。それが、一年半という期間続いて私は立ち止まってしまった。一年半、なにも生産されなかった現実が、ふと目の前に横たわっていたのだった。 あれ?私は、いつから成長をやめたんだろう。そんな疑問が、気付いた瞬間に急速に、私の中で膨れ上がった。 趣味に没頭して新たな発見をすることもなく、仕事に見出していたはずのやり甲斐もいつしかルーティンに変わり、お互いを求めるだけ求めた先を見ようとしたのがすべての終わりだった。あぁ、こんな永遠は存在しない。そう。存在しないのだ。 お互い、遠くからこの地に越して来た者同士。その年月に差異はあったけれど、数年ちがうだけ。私には多くの友人がいた。彼には私しか、心を開ける人間がいなかった。彼が求めてくれることが生き甲斐の私は、彼に倣って同じように求めた。
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