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あれ、私、どこにいったんだろう。
床一面を占めていた服たちが、入りきらないほど袋に詰め込まれて、色をない交ぜにしていた。子供のお絵かきみたいに、ぐっちゃぐちゃになったそれを眺めると、また一つ笑いが零れた。
「あは、なーんだ、できるじゃん」
断捨離。
この言葉も随分と世間には広まっていたけれど、いつの間にか私にはできなくなっていた。ため込んで、思い出も全部大事にしたくて。捨てられなくて。
残った服はとても簡素なものだった。これだけあれば生きられる。それしかいらない。そんなものだけが残った。
温かい赤とピンクの中間みたいな色が下からグラデーションになったTシャツ。
蓮がプリントされたサルエルパンツ。
すこしダメージの入ったデニムのスキニー。
あれと、これと。…あぁ、やっぱり。
自分の好きな服を残したはずだったのに、残ったものを見て愕然とした。どこかで分かっていたはずだったのに。ぜんぶ、ぜんぶ。たった一人の人と過ごしていた時から持っていたものが、そこに並んでいた。
ぜんぶ、和哉が居たときのもの。
「お前には、構ってられない」
「もう、ついていけない」
私が、私として立っていられなかったから、弱かったから、離れてしまった人。それを表すように、残った服たちは彼ばかりを示す。
あぁ、私が私を一番好きだったのも、彼と居たときだった。
そんな当たり前のことに、この断捨離で気付くなんて。
離れて、もう何年たったというのか。五年?六年?もっとかな。元彼たちを遡っていけば、辿りつけるはずのその年月の振り返り方がアホらしくなった。なんでもいいんだ。そんなものがどうでもいいくらい、結局、彼が好きなまま過ごしてしまったんだ。
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