むかしの話

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「あら、ごめんなさいね。シャンティは本当に、アナタのことが好きねぇ」 「ううん。僕も好きだから」 「ありがとう。あら、アナタの目の色……シャンティちゃんにそっくりね」 「そう?」 「ええ。すてきな色だわ」  そんな会話をしても、僕は決してシャンティには触れない。  ネコおばさまのネコは、絶対に撫でたりしちゃいけないのだ。  以前、一度だけ手を伸ばしたらスゴい勢いで取り上げられてしまった。  そんなに大事なら、腕になんか抱いてないで檻に閉じこめておけばいいのに、と今では思う。 「……おばさま、この子いくつだっけ?」 「そうねぇ、いくつかしら。……もう、若くはないハズだけれど」 「ネコってねぇ、たくさん生きたら尻尾が分かれて、猫又っていう長生きする妖怪になるんだって」 「そうなの……?」  学校の図書館で仕入れたばかりの知識を、おばさまに披露する。  それは大人が耳にするにはあまりにも拙い知識だったけれど、いつも黙って興味深そうに聞いてくれた。 「何年くらい、生きればいいのかしら?」 「えっ? そんなの知らないよ。長年、って書いてたから……二十年くらいかな?」 「二十年ねぇ……」    二十年。  適当に言った期限。  人間だって、二十年も経てば成人するからきっと「長年」ってそれぐらいだと思った。  これが、ネコおばさまが狂い出すまでのタイムリミットだった。  
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