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「イオリ、キスをしようか」
伊織の耳元でそう囁いたリデルタは汗で額に張りついた黒髪をそっと後ろへと撫でつけ、こめかみ、瞼、鼻先、頬へと順番に唇で優しく触れた。
軽く触れるだけのキスが終わるのはあっという間で、最後にリップ音をたてて離れたリデルタの唇を伊織は視線で追った。
キスと言えばお互いの唇をただ重ね合うものだと思いこんでいる伊織はリデルタの柔らかそうな唇がいつ自分の唇にも触れてくれるのかと瞼を閉じてじっと待った。
しかしすぐに襦袢を咥えていてはキスができないと気づいた伊織が瞼を開けて僅かに口を開けた刹那、その隙を狙ったリデルタの薄い唇によって布越しに唇を塞がれた。
「っ…ん、はぁ…ぅ…」
隙間なくぴったりと重ねられた唇は布越しでも温もりを感じられるほどに熱を帯びていた。初めて感じる他人の唇の柔らかさに驚き、身体が無意識に震える。
キスという行為に慣れていない伊織の飲みこめなかった唾液が唇の端から溢れるもリデルタは嫌悪することなくそれを追いかけて綺麗に舐めとった。
そして襦袢に邪魔されるのも構わずにお互いの舌を絡めようとするリデルタによって深いキスを幾度も仕掛けられ、巧みに動く舌に口内の上顎をねっとりと舐められると伊織の背筋はゾクリと粟立った。
次第に激しく濃厚なキスへと変わる口付けに呼吸の仕方が分からずに苦しくなった伊織は大きく咳きこむ寸前に目の前にある逞しい胸板を弱々しく叩いた。
その拍子にお互いの唇が銀色の糸を引いて離れる。
咥えていた襦袢も口から一緒に離れ、一気に酸素を肺に吸いこんだ伊織は大いに咽せてしまった。
「…鼻で息をしてごらん」
見兼ねたリデルタは伊織の呼吸が落ち着くまで暫く頭を撫で、頃合いを見て淡く色づいた唇を再び塞いだ。
唇の輪郭に沿って舌を這わせ、偶に上唇をチュッとリップ音をたてて吸うと伊織は気持ちよさそうに声を洩らした。
最後の仕上げとでもいうように舌を強く吸われ、水音をたててお互いの唇が離れた。
伊織の唇は執拗な愛撫をされて赤く腫れ、僅かにヒリヒリと痛みを感じて恨めしげにリデルタを睨んだ。
しかしキスで呼吸がすっかりと乱れてしまった伊織の白い頬は熟した林檎のように真紅に染まり、抑えられない色気が溢れていて効果はまるでなかった。
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