王子くんの12か月 夏至、そして小暑

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あの後、澤山さんは少しだけ話をして帰っていった。 澤山さんはあの書店に勤め始めて10年が経ったと言っていた。 無我夢中で一生懸命仕事を続けていたら、それぐらいの年月はあっという間だったと笑っていた。 今は他の従業員たちをまとめる立場にもあるらしく、色々考えることがあると話していた。 『それほど急いではいないので』 『ちょくちょく朱華屋さんには寄らせてもらうので』 そう澤山さんが言ってくれたため、俺が『これだ』と思った本が見つかったら朱華屋で渡すことになった。 俺は店じまいをしながら、改めて朱華屋の店内を見渡す。 色んなものが置かれている朱華屋。 本も古い物から一般の書店ではあまり見かけないような物まで置かれている。 あやめさんに一度尋ねてみたところによると、彼女自身が選んだものだけではないようだった。 改めて不思議な空間だと思う。 色んなものが様々な形を成してそこに元からあったように存在している。 しかし、それはいつしか求めている者の手に渡っていく。 お客さんも何かを求めているようでいてどこか彷徨うようでいて、ふらりとこの店を訪れる。 そして何かを手にして帰っていく。 それをあやめさんが見守り続けているのだ、まるで大切なものを守るように。 俺はそっと目を閉じると今日のことを思い出し、澤山さんのことを思い浮かべた。 まだ今は、気づきのようなものはないことに思い至って、俺はそのまま店じまいの作業へと戻った。
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