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あの後、澤山さんとは一旦別れて、朱華屋の店じまいを終えた後に再び待ち合わせをした。
「じゃあ、行きましょうか」
駅で待ち合わせした澤山さんと、ある場所へ向かった。
「初めてですか?」
「いや、さすがに初めてではないかな・・・・・・学生の時は来たことあるし」
俺が彼女を連れてきたのはゲームセンターだった。
澤山さんはどことなく猫背気味で俺の後をついてきていた。
澤山さんからのお願いは『王子くんの気分転換を教えて』だった。
「俺はレースゲームが結構好きで」
「なるほど」
「普段は絶対に安全運転だから、現実じゃありえないことを夢中になってやってるうちに頭が自然と整理されてくような感じがするというか・・・・・・」
「なるほど」
やや緊張しているのか澤山さんの返事は一辺倒になっていた。
澤山さんも現実では安全運転だということもあってか、最初は恐る恐るといった感じだったんだけれど、段々とコツを掴んで時々『ひゃー』なんて声を出しながら楽しんでいるようだった。
その横顔が視界に入ると、当然のようにちょっとした安堵感みたいなものが出てきたのだけれど、それと同時に懐かしさのようなものがじわじわと体の奥から湧き上がってくる気がしていた。
太陽に照らされたアスファルトのように熱がこもるみたいな焦燥感と、水を掴もうにもそれはできないもどかしさのような妙に得体の知れない感情に気を取られていた。
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