鏡の奥に、優しい海

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私はいつからここにいるのだろう。 気がついたらここにいた。 ここは小さな部屋だ。ドアはない。 天井の少し下に窓がひとつある。 それから茶色の椅子があって、その目の前に鏡がある。 窓からは空だけが見える。 雨が降ったり、朝がきたり、夜がきたりする。 私は時々その窓から空を見る。 雨が降ったり、朝がきたり、夜がきたりするのを見る。 私は誰だか分からない。 ここに来る前に何をしていたのか、あるいはずっとここにいたのかも分からない。 ただ、いつも小さな茶色の椅子に座っている。 立てるのかもしれないが、立とうと思った事はない。 私は一日のほとんどを目の前にある鏡を見て過ごす。 鏡には白いワンピースを来てる女の子が見える。 茶色い長い髪を三つ編みにして、麦わら帽子を被っている。 これは私だ。 その女の子は、笑うことはなくいつも何処か遠い目をしている。 肌はほとんど真っ白といってもいいほど透き通っていて、唇の右下に小さなほくろがある。
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