ピンクの鯨

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ある時私は雨が降り続ける街を旅した。 杖をついたおじいさんが、 わしが産まれるずっとずっと昔から、一度もやんだことはないと言っていた。 皆暗い顔をして、誰も笑わない少し怖い街だった。 ある時私はドアがひとつもない家が続く街を旅した。 白い壁の家が永遠のように続き、物音ひとつしない静かな街だった。 ある時私は家も家具も洋服も宝石だらけで出来ている国を旅した。 皆張り付いたような笑顔をしていて、異常なくらい優しさで溢れてる国だった。 どの旅も、私をわくわくさせ、すっかり満たされた気持ちで海辺に戻るとピンクの鯨はおりこうにそこに待っているのだった。 そして毎回私は鯨に乗り旅の出来事を1から話す。私は鯨の言葉は分からないが、鯨はしっかりと理解しているようだった。 悲しい話をすればゆっくり泳ぎ、楽しい話をすればダンスをするように泳いだ。 そして、すっかり旅の話をし終えると、きまって目が覚めるのだった。
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