ピンクの鯨

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屋上までたどり着くと、あたりは霧一面で、まるで海みたいだった。 「今ならここに飛び込める気がする」 そう思った。 不思議と心の中は静かだった。 ママとパパは悲しむだろうけど、いずれ過去になるはずだ。 心残りとか、そういう物は不思議となくて、静かな気持ちだった。 そして、私は吸い込まれるように霧の海に飛び込んだ。 するとあたりは瞬く間に真っ白になり、そしてあたり一面はきらきらと輝きだした。 青、緑、黄色、沢山のきらきらに包まれた。 私はピンクの鯨に乗っていた。 ピンクの鯨はスピードをあげていく。真っ白できらきらな空間を、まるで海の中のように上へ上と向かって進んでく。 きらきらに包まれて、次第に何も見えなくなっていく。意識も少しずつ遠退いていく。 気がついたら私は思い出の中にいた。思い出の中を鯨はどんどんどんどん進んでいく。 そして鯨は歌をうたった。言葉は分からないが今まで私が聞いた中で、一番綺麗な歌だった。
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