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「あっ」
小さな声の後に数冊の本が床に落ちる音が響いた。
俺は死角になっている本棚の向こうへと向かう。
角を曲がれば入口の扉に張って有る手書きの注意文が真っ先に目に入る。
『万引きは犯罪です』と、小さく横に書かれる『罪には罰が伴います』の文字。
見慣れた文字だ。
そして床に落ちている先程手に取られた一人の人間の半生が綴られた本と一冊の文庫本に、もう一冊、薄汚れてはいるが新しい自伝の本が散らばるのを確認する。
やれやれと言えば良いのか、自業自得だと告げれば良いのか。
もう感覚は麻痺してしまった。
「アンタも、いつかは誰かの手に取られる日が有れば良いと願うかい」
文庫本を戻し、自伝の立ち並ぶ一角に二冊の本を収める。
一冊分しか隙間の無かった本棚に、まるで最初から収まる様にスペースが余分に空いている事にももう驚かない。
万引きを繰り返した輩の自伝が立ち並ぶ一角には、今日もまっとうな客は寄り付かないだろう。
たまに誰かが来れば、出所不明の本が一冊増えるだけのコーナーだ。
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