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『巨大迷路』。
そもそも巨大な迷路自体、この辺には「ファンドリーランド」以外になかった。
そして、今もない。
彼はそんなことを考えながら、右へ左へ真っ直ぐ右へ…………と歩き続けていた。
歩き続けていたのだが、なかなかどうして先に進んだ気がしないのだ。
魔法にでもかけられたか───いや、そんなはずはない。
そんな考えすら、彼の頭には浮かび始めていた。
そこで、彼は壁づたいに歩いていくことにした。
そうすれば、時間はかかれどゴールには確実に辿り着ける。
もちろん、彼だって「壁の下をくぐる」みたいなことを考えなかった訳ではない。
ただ、拳一個分程の隙間を彼がくぐり抜けるのは、とても現実的ではない。
そんなこんなで歩き続けていた彼も、さすがに辛くなってきた。
その時だ。
彼は目の前の壁が切れた場所を走り抜ける影を見た。
彼は無理やり体を起こし走る。
とにかく見失わないように──
曲がり角に差し掛かったら、すぐさま左右を確認して──
そうして影を追いかけ続けて、気がつくと
「ゴール!おめでとう!」と描かれた看板が彼の視界に入ってきた。
それと同時に
「オメデトーございまーす!いやー、ゴール、できましたね!感心感心。」
という重低音なボイスと共に、茶色いシルクハットに茶色いカールしたひげ、全身ミルクチョコのような色のスーツや靴に身をつつんだ、初老の男性……おじさま、とでも呼べるだろうか、そんな風な誰かが現れた。
「誰?」
思わず彼──巧は口に出していた。
その声を聞いた男性は、目を丸くした後
「あ、自己紹介がまだ、でしたね。」
そう言って胸ポケットから紙切れを取り出した。
──名刺だ。
「私はこういう者でして。」
そして名刺を巧の方に差し出す。
それを受け取った巧は声に出して名前を読み上げた。
「ファンド・ボンド・サンド……?ファンドリーランド事務局復興課取締役……??」
変わった名前だと思ったが、巧はツッコミはしなかった。
それよりも別に、気になるところもあったわけで。
「この復興課?ってなに?あとなんて呼べばいい?」
「えーと、とりあえず『ファンド』と呼んでいただければ。あと前者は、今のところはご想像にお任せしときます。」
「……分かった。」
「でも今日はもう遅いですし、お帰りになった方が良いかと。入場門までお見送りしますよ。」
ファンドの気遣いもあり、巧は入場門まで向かうことにした。
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