最初の覚醒

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 光の中、滲むように見えてきた顔は、タカと同じ二十代前半の若い男だ。白い肌に緑の瞳、結ばずに下ろしたままの長い金髪、薄茶の眉の下で光に透けるほど薄い色のまつげが瞬く。コーカソイド人種らしい彫りの深い顔立ちは作り物のように整っている。絵や彫像と違うのは、病めいた熱を感じさせる強い眼差しがある点だ。  その容姿は、タカが子供の頃、礼拝堂で見た神様の絵にどこか似ていた。そこにいるだけで何もしてくれない神様は、タカには諦めを説いているように見えたものだ。 「俺……死んだ?」  まだ舌の動きが悪い。小さくて曖昧な発音は男に伝わらなかったらしく、顔をしかめられた。 「おはよう、タカ」  再び聞こえた声を、ようやくほどけはじめた思考で認識する。 「……あぁ、リックか。随分と成長したな」  どれほど見覚えがなくとも、目の前の青年は同僚であるリック以外にありえなかった。なぜならここは辺境宇宙探査船エプシロンファイブであり、自分を入れた乗組員二名の他には、半径二百光年内に人類は存在しない。  西暦三千年、地球は環境悪化を極め、人類は太陽系内の資源さえも使い尽くしていた。外宇宙へ活動範囲を広げたものの、地球と同等以上の快適さをもつ惑星を見つけるには至っていない。  辺境宇宙探査船は数百年の時をかけ、未開の宇宙を進み、慢性的に不足している有効資源を探すのが任務だ。  リックとは何度か一緒に訓練をしたものの、業務報告のメッセージビデオを取り交わすのみで顔を合わせていなかった。     
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