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電話機のオルゴ-ルが鳴った。電話機の受信コ-ル音だった。葛西は受話器に
伸ばした手を何故か?無意識に止めていた。オルゴ-ルが鳴って葛西の出番を
催促している。葛西は受話器を握った。
「お忙しいところを、すみません」 秘書の青木悠子の声がした。
「いや、だいじょうぶですよ」 葛西は穏やかな口調で言った。
「諏訪 純 様から、お電話が入っています」
「繋いでください」 葛西は門前払いが出来なかった。
それは長女の晶子と親友の田中好子の悪夢アクシデントを払拭して解決して
くれた謝意を形だけでも表さねばならない。だが多分あのアクシデントは諏訪
の遣らせ!マッチポンプだろう。しかし、その証拠は無い。口惜しいが今は冷
静に謝意を表するしか術はない。
「理事長!ご無沙汰しています」 受話器から明朗な諏訪の声がした。
「娘が危ないところを有り難うございました」
「いやぁ~奇遇でしたね。まさか理事長のお嬢様だったとは・・」
「電話で謝意をと思っていたのですが会議や海外出張や雑務に追わ
れて謝意が遅くなりました」 葛西は苦虫を噛み潰していた。
「理事長と僕の仲で水臭いことは言いっこ無しにしましょう」
「私と諏訪さんの仲で?どういう意味ですか?それは!」
「理事長!そう四角四面シリアスに考えないでくださいよ」
「誤解を招く発言は控えてください」 葛西は憤怒!困惑していた。
「それにしてもラッキ-でしたね!僕が、もう少し遅れて公園を通って
いたら取返しのつかない惨事になっていましたよ。偶然とはいえ理
事長と僕は縁があるんだなぁ‐と、つくづく思いましたね。理事長似
の美人で素敵で聡明なお嬢さんじゃないですか。純粋無垢な花嫁姿
これから先が愉しみですね!理事長も奥様も・・」
「ご用件は何でよう?」 葛西は木で鼻を括った様に言った。
「あぁ!そうでした。実は3万人の弱者的立場境遇の方々から嘆願書
に署名捺印を、お願いしているのです。3万人の署名捺印が終了し
ましたら、その時は理事長のご協力を、お願いしたいと思っています。
あ!それから部下の汚職や入札談合の件は絶対リ-クしませんから
ご安心ください。NPO日本弱者支援協会は全員!僕を筆頭に最後ま
で何があろうと葛西理事長の味方です。ご安心ください」
葛西尚人は諏訪 純の理路整然としたト-ク話法に唖然としていた。
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