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 エミリオが寄宿学校に入学して二度目の春が訪れた。  春季休暇で里帰りする生徒達が、迎えの馬車に次々と乗り込んでいく。爽やかな風が吹く石造りの渡り廊下に佇んで、広々とした校庭を眺めながら、エミリオは澄んだ碧い瞳を薄っすらと細めた。その横顔には、以前のような苛立ちは一切感じられない。ふとした瞬間に口元が弧を描き、柔らかな微笑みが浮かぶ。  長いあいだ胸に閊えていたわだかまりは、この冬、久しぶりの里帰りで、積もり積もった雪とともに溶け消えていた。思い返せば情調の欠片もない酷い告白ではあった。それでも、あのとき想いを伝えて正解だったのだと、彼女の笑顔を思い出すたびに確信できる。  薄紅色に頬を染めてはにかむように微笑むアリエッタ。子供の頃から何度も目にした穏やかな笑みとはまた違う、恋する少女の顔をした彼女のことを思い出すたびに、エミリオの胸はきゅんと締め付けられた。  街はすでに復活祭の準備で賑わっている。屋敷に戻ったら一番にアリエッタを祭りに誘って、そして――。  不純な想像が脳裏を過ぎり、エミリオは慌てて首を振った。柔らかく指先を包み込む、あの感触を思い出して、手のひらがじんと熱を帯びていた。     
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