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 エミリオも年頃の男子だ。婚前の、交際を認められた訳ではない状況で、紳士にあるまじき行動だと理解はしていても、好きな異性には触れたいと思ってしまう。キスは勿論、その先だって考える。  爽やかな春の景色を背景に悶々と頭を悩ませていたところで、軽い靴音がエミリオの耳に届いた。 「こんな所に居たのか。もう迎えの馬車が来てるんだけど」  エミリオと揃いの黄金色の髪をなびかせて現れたのは、三つ年長の兄ウルバーノだった。細身の長身を春物のスーツで装う兄の姿は、端整な顔も相まって、弟のエミリオから見ても麗しい。  それなのに、これだけ容姿に恵まれて、社交の場に出向けば令嬢のあいだで引く手数多な癖に。ウルバーノは以前、無垢だったアリエッタに手を出したのだ。  握り締めた手のひらに無意識にちからが篭る。エミリオは意識せずとも仏頂面になっていた。 「なに拗ねてんだよ」 「別に」 「……へぇ」  返事をした矢先、エミリオの肩にずっしりとした重みが掛かる。バランスを崩して前のめりになりながら、エミリオは訴えるようにウルバーノを見上げた。 「ちょ、兄さん、重っ……」 「生意気な弟にはお仕置きが必要だろー」  ひらひらと手のひらを振りながら、ウルバーノは颯爽と進んでいく。ふたり分の肩掛け鞄を両肩に提げて、エミリオはよろよろと兄の背中を追った。
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