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 遠くの空に花火の音が響いている。  玄関前でエミリオを待ちながら、アリエッタはやり残した仕事がないか、指を折りながら考えていた。  今朝、いつもよりはやく起床したアリエッタは、厨房で母と一緒に鳩の形のパンを焼き、ハーブオイルに羊の肉を漬け込んで、晩餐の前には戻ることを約束して自室に戻った。  エミリオの母に借りた白と薄緑の縦縞模様(ストライプ)のデイドレスを着て、長い髪はいつもよりお洒落に巻いておめかしをして。エミリオに貰った香水を一滴ずつうなじと太腿に馴染ませて。  出かける準備が終わったころにはすっかり正午を回っていた。  街へと続く煉瓦道を、エミリオと並んで歩く。  今日のエミリオはいつもと違うブラウンのスーツを着て、大人びた帽子を被っていた。めいっぱいおめかししているのが自分だけではないのが嬉しくて、アリエッタは頬が緩んでしまうのを堪えるだけで精一杯だった。  ちらりと隣を見上げると、緊張した面持ちで道の先を見据えるエミリオの横顔があった。頬をほんのりと赤く染めて、口の端をひくひくと引攣らせて。懸命に平静を装うエミリオが、堪らなく愛おしい。  この人に触れたい、と自然に思った。
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