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 数ヶ月ぶりのキスは軽く触れるだけのものだった。  けれど、はじめてキスしたときよりもずっと、胸がどきどきした。  布袋を抱える腕に自然とちからが込められる。呆然と瞬きを繰り返すアリエッタの瞳をじっとみつめて、照れを隠すように悪戯な笑みを浮かべると、エミリオは両手をポケットに突っ込んで、元来た裏道を戻って行った。  去りゆくエミリオの背中から目が離せないまま、しばらくのあいだアリエッタはその場に立ち尽くしていた。屋敷の角にエミリオの姿が隠れたところでようやく我に返り、屋敷へ戻って勝手口の扉を閉めた。帽子を脱ぎ、布袋を棚に置いて、閉じた扉に背を預け、小さく息をつく。胸の前で祈るように手を結び、高鳴る胸の鼓動を必死に抑えた。  触れ合った唇が離れたあと安堵したように綻んだエミリオの顔が、まぶたの裏に焼き付いていた。瞬きするだけで胸がきゅうっと締め付けられて、息が詰まってしまう。  数ヶ月ぶりに見たエミリオは冬季休暇のときよりもまた背が伸びて、肩幅も広く、顔立ちも凛々しくなっていた気がする。アリエッタを映す澄んだ碧い瞳はとても情熱的で、みつめられただけで全身が熱を上げてしまうほど強い想いを感じた。     
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