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ビジュー書店のある一日
王都の中心から少し離れた貴族街の端にわたくしの家はあります。窓から燦々と降り注ぐ強い光が今が夏であることを知らせてくれます。いつの間にか空は高く青く広がり、庭の木々の緑の色が増していて、青々とした彩りの美しさにわたくしはほぅと感嘆の息をつき思わず窓を開けました。途端にその緑に満ちた青い風が室内に流れ込んできて、胸いっぱいに吸い込みます。室外に出ることがほとんど無いわたくしにとって、窓の外の風景は自然と触れあう数少ない機会です。
「まあ、お兄様ったらまたお庭のお世話をされているのかしら?」
……あのような事なさらなくともよろしいですのに。
喉にこみ上げた苦い感情を溜息と共に飲み下して、遠くに見える自分と同じ黄色がかった薄茶色の髪が動くのを僅かに目を細めて眺めました。
……お兄様のご意志が大切なのですもの。
「リュシエンヌ様、そろそろ……」
「わかりました。ネリー、開店準備をいたしましょう」
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