ビジュー書店のある一日

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 わたくしは思考を切り替えて側仕えに指示を飛ばします。わたくしのお店は本屋で、わたくしが店主です。本は大切な情報源であり次代へ引き継ぐ資産。部屋にいながら外のこと、世界の知識を知り、また知識の伝達の手助けをする。本屋は素敵な職業だと思います。  まずはお店の清掃を店員が手分けして行います。お店の入口に商品の目録の冊子と新刊の見本が1冊ずつ入った棚があり、少し歩いた奥の方の右側には接客用の艶光りした木製の机と椅子が、衝立を隔てた左側には、貴族用の丸く白い机と椅子が置かれています。それぞれ曲線を描く装飾を施された優美な品です。それを丁寧な手付きで清めていきます。側の小さな卓には季節の花を。机の向こう側はお店の奥の在庫置き場などに繋がっていて、入ってすぐ左手の扉はわたくしの執務室、右手は貴族用の応接室です。  いつも通りそれぞれが動いていると、開店の時間を知らせる三の鐘がカーンカーンと街中に鳴り響きました。ビジュー書店の始まりです。程なくドアに付けた小さな鐘もカランと鳴ります。 「これはリュシエンヌ様、風の神のお導きによる巡り合わせに感謝を。ご機嫌麗しゅう。入っても宜しいでしょうか?」 「ブノア様、ようこそいらっしゃいました。ちょうど開けた所ですわ。どうぞ奥へ」     
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