エピソード5.各務宗二朗(43)の場合。「瞬間移動」

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 この時間のビル街では、流石にまだまだ人通りが多い。目の前でいきなり人が消えては大騒ぎになると思った各務は、人一人がやっと通れるようなビルとビルの隙間に入ってから、その能力を実行に移した。  後・・・  辺りは騒然となった。突如銀行が大爆発を起こしたからだ。 『瞬間移動の危険性:例えば、瞬間移動した先にコンクリートの壁があった場合、コンクリートは人の形に空洞を作るだろうか。作るとしたらその人型のコンクリートはどこに消えるのか。当然消えることなどない。    消えた人の居た場所は瞬間的に真空になり、その人の現れたところには、コンクリートの原子と人を形成する原子とが重なることになる。しかし当然の事ながら原子と原子は重なり合うことなど出来ない。  そして人はその存在を忘れているものがある。それが「空気」だ。人の紡ぐ物語における「瞬間移動」とは、実は「空気」をないものとして扱っている。人は目に見えないものを自覚することに劣っているのだ。  コンクリートの例で挙げたように、それがたとえ「空気」の原子であっても、人の原子と重なることはあり得ない。それを無理に実行しようとすると、原子同士がぶつかり合い、核融合を起こし・・・その先は想像もできない』  5ページ目にはこのような注意書きがあったのだが、すでに破かれた後であり、各務がそれを知ることはなかった。
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