本の世界へようこそ

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「はぁ……終わった終わった」 日が傾きかける時間帯。一般に帰省ラッシュと言われるこの時間帯は電車はキツく、座るどころか立っておくのも一苦労だ。仕事終わりにこれはキツい。 そんなキツ苦しい思いを終え、ようやく一息。会社員である本詠 霧中(ほんよみ むちゅう)は一人ぼやく。大変な思いをした分、この後待っている自由な時間が楽しみでたまらない。 何を隠そうこの男、本には目がないのだ。目当ての本を見つけ、読書をする日々。本だけが、辛い現実を忘れさせてくれる唯一の楽しみ。家に帰れば、この楽しみにどっぷりと浸かることができる。 自然、足も早くなるが…… 「ん、こんなとこに本屋なんてあったっけ」 いつもの通勤路、いつもの風景……そこに、風変わりした建物が建っている。こんなところにこんな建物があっただろうか……多少疑問に思うが、その疑問は建物の名前を見て吹き飛んだ。 「『ブック・ヴァルハラ』……本の宮殿、か」 建物……おそらくは店だろう。首を上げるとそこには、先の文字。ヴァルハラとは、ドイツ語で宮殿という意味。宮殿とは大それたネーミングだ。だが、そこに魅惑の何かを感じる。何より、本の宮殿と言われてここで帰るという選択肢などない。 扉を開け、霧中はゆっくり、店内に足を踏み入れる。
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