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にわかには信じられない。理想の本?自分が読みたいものが、表れる?そんなバカなことがあるか。
「ここは、真に本を愛する者たけが見つけられる場所!そんなお客様にこそ、ふさわしい本です!」
本を開く。そこには……何も書かれていない。真っ白だ。読みたい物語どころか、ただの紙ではないか。
「今この場では何も書かれていませんよ」
霧中の疑問に答えるように、店長が言う。
「なあ詐欺だろ。どう考えてもあり得ないし、そんなんで金を取ろうったって……」
「いえ、それは売り物ではありません。それはレンタル品……お金もいただきません」
現実的に考えてあり得ないと、否定する。だが店長は変わらぬ表情で返すのみ。彼の言った、お金のいただかないレンタル品、というのに興味が湧いた。
「ふぅん、なら、これを借りるよ。金はいらないんだろ?」
どうせ騙されるだけ。わかっていても、乗ってみるのも悪くない。どうせ毎日同じことの繰り返し、少しくらい刺激があってもいいだろう。
「あまりオススメできませんねぇ。確かにそれは、お客様の理想の本……ですがそれを読むには、時期尚早かと」
「どういうことだよ。読むのに時期が必要なのか」
意味深な店長の言葉に、思わず眉を潜める。
「いえそういうわけでは。ですがお客様、見たところ20代半ば~30代。あと60年は待っていただいた方が」
「待てるか!」
後60年も待てだって?馬鹿げてる。ここに理想の本があるのだ、待てるわけない。詐欺だろうけど。
「いいですか、その本にはお客様の理想が詰め込まれています。楽しさも悲しさも怒りも、全てが詰められた本。つまり……」
「そんなこと言われて、はいそうですかって納得できるか。それに所詮悪戯の類、そんな設定並べても怖くねーよ」
「……ご忠告は、しましたよ」
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