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「いやぁ本当にありがとうございます!おかげで最高の1日を過ごせましたよ!」
「ホホ、それはよかった」
結局あれから一睡もせず、丸々1日をかけて読破した。楽しく、悲しく、怒り……そんな、感情を詰め込んだ最高の一冊だった。
「しかし、会社の方はよろしいので?」
「そんなことより、内容が素晴らしすぎて止まらなくて!もうホント、最高でしたよ!」
本を、返す。不思議なことに、本は一度読んだら白紙に戻ってしまったのだ。
「そんなに喜んでいただけて何よりです」
「こんな気持ちになったのは初めてですよ!」
それから会話を続けるが、キリのいいところで切り上げる。霧中は出入り口へと向かい……
「おや、本はお買いにならないので?」
「あの本を読んだ後じゃ、何読んでも霞んでしか映りませんよ。しばらくはこの余韻を楽しみます!」
そう言って、扉を開けた。扉を閉める間際……
「えぇ、楽しみましょう……お互い」
何か聞こえた気がしたが、扉が閉まった音に隠れてしまった。
あぁ、何ていい日なのだろう。心が爽やかだ。明日から、心機一転で頑張れそうな気がする。やっぱり本って素晴らしい。
……それにしても。
「店があったのって、この場所だったっけ」
微かな違和感を胸に、霧中は歩き出す。
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