本の世界へようこそ

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数日後 「ない……ない、ない!」 血走った目で、霧中は本屋を渡り歩く。道行く人の目などお構い無しだ。今はとにかく、自分の欲しているものが見つからない。 そして……見つけた。探していたものとは違うが、本来の探し物はこれだ。叩くように扉を開く。 「店長!店長さん!」 「おや、お久しぶりですねぇ」 数日ぶりの顔。しかし霧中にとっては、忘れることのできない顔だ。迫るような剣幕で店長に歩み寄る。 「ないんですよ!どこにも!」 「はい?」 「面白い本が!」 その剣幕に押される……わけでもなく、ただ店長は人のいい笑みを浮かべている。 「どれもこれも!全然魅力を感じない!前まで興味を持ってた本も、途端に興味が失せた!思えばあの日からだ、何か知ってるんだろ!」 「オホホ、だから言ったのに。理想の本わ読むのは、後60年は待ちなさいと」 「は……」 答えになっているようないないような、意味不明な言葉を並べる。いやどうでもいい。この男が何か知っていることは確実だ。ならば…… 「理想の本……それは貴方の、読み手の理想が詰まった一冊。全ての感情を爆発させる、世界にただ一つの本」 目の前にいたはずの店長が、いない。声は、背後から。振り向く。そこにいる。
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