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 プロジェクターが発する振動音が途絶えた。  訪れた静寂のなか、ゴクリと唾を飲み込む音、荒い鼻息……欲望にまみれた別の音が降り注ぐ。映像は終わった……それで、次は? 「手錠は外せないね、君が暴れると困るから。服は私が買ってあげるよ」  もう彼の声を愛おしいと思えない。わたしを簡単に踏みにじった男の声。  ジョキジョキと布を切る音――服が切り刻まれている。あっけなく上半身を裸にされ、ボトムを引きずりおろされた。 「初めてだからね、少し助けを借りよう」  嫌悪と恐怖で硬直した体を優しくなでられた。 「気持ちよくなる薬だよ。今日君を抱くのは私だけだ、もちろん触るのも私だけ。安心していい」  この状況のどこに安心しろと?あまりのバカバカしさに涙が零れる。アイマスクの中で行き場をなくした水滴は私と一緒だ。どこにも逃げ場はない。  なんの前置きもなく、後孔に何かが触れる。足をばたつかせて抵抗しても佐藤はやすやすと目的を果たした。 「催淫剤だよ。座薬だから直ぐに効き目がでてくるはずだ。 碧仁、ようやく君とひとつになれる。キスができないし、素敵な声が聞けないのは興ざめだ。 猿轡は取ってあげよう」  腹の上にまたがられ、重みでベッドに沈む。猿轡が緩んだ瞬間、大声を上げようとしたのに唇を押し付けられ、もぐりこんだ舌に口内を蹂躙される。  もはやわたしの叫びはくぐもった呻きでしかなく、官能に裏打ちされた甘い声のようだ。  遠くから耳に流れてくる音……こ、これは!唇が離されるが、右手で塞がれ、またしても叫ぶチャンスを逃した。 「ここは碧仁の部屋だよ。わかるね。ここは君の部屋だと思ったほうが楽だよ。さあ、感じるんだ。私にすべてを委ねなさい」  彼が最初に訪れた時CDを一枚持ってきた。それはありふれたボサノバのコンピレーションもので、誰もが知っているスタンダードが収録されていた。  『邪魔にならない程度に心地よい。それが最高のBGMだと思わないか?』そう言って、わたしを抱き締めた。  それから、彼が訪れるたびに、この音が部屋に流れた。  すべての、このバカらしい現実に絶望する。  死にそうな程の羞恥と怖れから逃れられるなら、慣れ知った相手の重みに身を委ねたほうがいいじゃないか。彼の手だけを感じたほうがまだマシだ。  何も見えない暗闇の世界に一人……わたしはすべてを放棄した。
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