<15>

7/7
前へ
/84ページ
次へ
 ドアの音で目が覚めた。汚れて乱れたシーツ。体が重い。  ベッドサイドの液晶パネルは「9:40」音のしたほうに首を向けると、斉宮が立っていた。 「わざわざお迎えですか?」 「ええ、近くまできたもので」  頭を振りベッドに座る、もちろん裸で汚れたままだ。 「もう薬は勘弁してください」  片方の眉が上がる。くそ……やられた。 「もう、トシとは組みませんよ。そのうち絶対やられます」 「規律と模範を乱す者は、それなりの罰、そして周知が必要ですね」 「まったくです。『peur』 の意味をわかっていないようですよ。 金で満ちたプールだと勘違いしてますね、たぶん」  Peur-ポワンとした響き「プール」でもこれはフランス語で「恐怖」 「パターン2レベルに、本当の意味など教える必要はありません。 隣の部屋のチェックアウトは済んでいます。この部屋の仕掛けは回収済。あとは蒼を引き取れば万事OKです。一人でバスルームに行けますか?」 「大丈夫です、10分ください」  重たい身体に鞭うってシャワーを浴びる。あの男はいったい何回中に出したのだ?いずれにしても、あの抱き方は男の経験はないし、あの男に抱かれた女にも同情する。  全てを洗い流しサッパリして外にでると、用意されていたのは女物の服だった。嫌だと言える身分でもない。  ワンピースをかぶり、ウィッグをつける。ストールを捲くと、車いすが用意されていた。 「歩かなくて済みますから。お疲れでしょう?」 「ありがとうございます」 「どういたしまして」  何事もなかったようにホテルをあとにする。  これがわたしの仕事。わたしの日常――「大水 蒼」 の生活だ。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

239人が本棚に入れています
本棚に追加