239人が本棚に入れています
本棚に追加
ドアの音で目が覚めた。汚れて乱れたシーツ。体が重い。
ベッドサイドの液晶パネルは「9:40」音のしたほうに首を向けると、斉宮が立っていた。
「わざわざお迎えですか?」
「ええ、近くまできたもので」
頭を振りベッドに座る、もちろん裸で汚れたままだ。
「もう薬は勘弁してください」
片方の眉が上がる。くそ……やられた。
「もう、トシとは組みませんよ。そのうち絶対やられます」
「規律と模範を乱す者は、それなりの罰、そして周知が必要ですね」
「まったくです。『peur』 の意味をわかっていないようですよ。
金で満ちたプールだと勘違いしてますね、たぶん」
Peur-ポワンとした響き「プール」でもこれはフランス語で「恐怖」
「パターン2レベルに、本当の意味など教える必要はありません。
隣の部屋のチェックアウトは済んでいます。この部屋の仕掛けは回収済。あとは蒼を引き取れば万事OKです。一人でバスルームに行けますか?」
「大丈夫です、10分ください」
重たい身体に鞭うってシャワーを浴びる。あの男はいったい何回中に出したのだ?いずれにしても、あの抱き方は男の経験はないし、あの男に抱かれた女にも同情する。
全てを洗い流しサッパリして外にでると、用意されていたのは女物の服だった。嫌だと言える身分でもない。
ワンピースをかぶり、ウィッグをつける。ストールを捲くと、車いすが用意されていた。
「歩かなくて済みますから。お疲れでしょう?」
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
何事もなかったようにホテルをあとにする。
これがわたしの仕事。わたしの日常――「大水 蒼」 の生活だ。
最初のコメントを投稿しよう!