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「待っていたよ、蒼。来てくれなかったらどうしようかと思っていた」
力任せにわたしを抱いた男。アンタと寝るのは、もうコリゴリだ。
視線の先にテーブル席に座る男がいる。そっと目くばせすると軽い頷きが返って来た。多分問題は起こらないと思うが、何か起こった時は、わたしの片手の動きで片がつく。
「あまり周囲に迷惑をかけてはいけません。いい大人が」
冷たい声を出すのは簡単だ、羞恥を伴わないから。甘えた声を出す方が自尊心を傷つける。
「な、なにを言って」
「わたしはあの会社にはいないと、そう対応されたはずです。実際とっくに籍はありません。お父様の力を借りて、宿泊者名簿の開示を迫るとは呆れてものも言えません」
男の顔がいっきに赤くなる。
「普段は関係ないような口をきいておいて、都合のいいときだけパパに擦り寄る?さすがにどうかと思いますけどね。
いずれにしても、貴方の行動は筒抜けです。どこに?それは言えません。よって自分の身が可愛ければ、今後わたしを探すなんてバカなことはおやめなさい」
「会社にいないって?あの日パーティーにいたじゃないか!」
「ええ、いましたよ」
「あれは会員じゃないと参加できないパーティーだ!」
呆れた……。
「そのルートでも探りをいれるつもりだったと?
もしそんなことをしてごらんなさい。貴方の将来はなくなります」
「ど、どうしてそんなことを言うんだ」
運ばれてきた赤ワインを一口含む。好みよりも少しタンニンがきつい。
思った以上にボンボンだ、この男は。ある意味出馬して政治家になれば脇が甘くて扱いやすいとも言える。それはそれで使い道がある。
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