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「わたしは、パーティーに参加していた、かなり上のポジションの方のお供であの場にいたのです」
「お供……?」
「接待、エスコート、サービス。お好きな呼び方でどうぞ」
「き、きみは!」
「あの日もホテルで仕事をしていました。しかし、相手が貴方のような考えナシの男だったものであんなことに。わたしをクスリと快楽で縛り上げようとした。それをあなたが助けてくれた」
「な、なんだって?」
「わたしはトップクラスの男娼です。買うには長い列が後ろに控えていますし、直接コンタクトをとることはできません。わたしにたどり着くには、多くのパスワードと信頼を積み重ねないと無理です」
「蒼……君が、忘れられない。逢ってくれないか……金ならいくらでも払うから」
「あなたは脇が甘すぎます。信頼性がありません」
一枚の写真をテーブルの上に載せる。
「こ、これは!」
「人づてに少し探りを入れれば簡単に手に入りました。これ以上うるさいことを言ってくるなら、奥様と奥様の実家に送りつけてやります。嗅ぎまわることも同様。ご理解いただけました?」
カタカタと震える哀れな男。
「その女性は切ったほうがいい。すでに貴方の汚点になっています」
目くばせをすると、テーブルに座っていた男が立ち上がりこちらに向かってきた。一見してカタギではないとわかる男。
「用は済みました」
「では、お送りいたします」
わたし達のやりとりを唖然として見ていた男に現れたのは敗北感。そうです、身の程を知れば、過ちを防ぐことができるのですから。幸運を。
男に背を向ける――もう視線は追ってこなかった。
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